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原書の筆法で読む

『傷寒論』の全体構造を先に理解する

本サイトは、『傷寒論』を後世の概念で説明し直すのではなく、張仲景自身がとった 「六つの病態モデルで病の流れを記述する」方法をそのまま解説する。条文冒頭の 「…之を病と為す」を鍵として、太陽・陽明・少陽・太陰・少陰・厥陰の六段階を読み下す。

このページで分かること

・なぜ六経なのか

・「之を病と為す」の本当の役割

・後の条文がなぜ総綱と一致しないのか

この構架を先に理解してから各条文に入ると、条文の位置づけが崩れない。

第1講

『傷寒論』は何をしようとした書か

『傷寒論』は、感冒・外感熱病など個別の病名を説明するための書ではない。病が 人体に入ってから、どのような順序で位置を変え、どのような条件で変化し、どこで解けるか、 その流れを六つの型に整理した書である。したがって読むべきところは処方名ではなく流れである。

張仲景は、無数にある病をそのまま列挙してはいない。まず「太陽病とはこういう状態である」と 正形を示し、そこから外れたものを一つずつ述べていく。これが条文が短いのに体系が崩れない理由である。

六つの病態モデル

この六つを理解すれば全書の位置関係が見える。

  • 太陽:病がいちばん外にある段階
  • 陽明:内に転じて実してくる段階
  • 少陽:外と内の分かれ目
  • 太陰:内に入り、働きが鈍る段階
  • 少陰:さらに深まり、陽が弱る段階
  • 厥陰:陰陽が乱れ、末端にまで及ぶ段階

「…之を病と為す」の意味

定義文である

各篇の冒頭に置かれたこの一句は、その病の正しい姿を示すための文であり、以後の条文を そこからの離れ方として読むための基準点になる。

総綱と偏証を分ける

後の太陽病条文に「脈浮・頭項強痛・悪寒」がすべて揃っていないものが多いのは、 それらがすでに偏った状態・誤治後の状態を述べているからである。

条文の位置を決める

同じ「太陽」と名が付く条文でも、この総綱からどの方向に外れたかで読む。これにより 雑多な条文を一つの木の枝として整理できる。

なぜ外部の理論を混ぜないのか

本サイトの解説は、『黄帝内経』の衛気営血や経絡学説をここに持ち込まない。理由は単純で、 『傷寒論』の条文そのものが、六病という独立した病態モデルで完結しているからである。 ここに後世の層を重ねると、条文と条文のあいだの論理が不透明になる。

まずは張仲景が書いた順序で、張仲景が使った語で、張仲景が区分した六病を読む。そのあとで 必要に応じて他書と会通すればよい。順序を逆にしない。

次に読むもの

以下の順で進めると体系が崩れない。

  1. 太陽之を病と為す(総綱)
  2. 太陽病の二大分岐(傷寒と中風)
  3. 太陽病の誤治・変証条文
  4. 陽明・少陽への伝変条文
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